糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症の一つで日本人の失明原因の上位となっており、目の奥にある網膜の血管や視神経が障害される病気です。
糖尿病はどういう病気?
厚生労働省発表の令和6年「国民健康・栄養調査」による資料では、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,100万人「糖尿病の可能性を否定できない者」は約700万人と推計されています。成人の約4人に1人は糖尿病又は糖尿病予備群に該当し、まさに国民病と位置づけられています。

糖尿病は血液中の血糖値が慢性的に高い状態を指します。体のエネルギー源である糖は、食事をすると栄養素の一部が糖となり腸から吸収され血液中に含まれます。また、眠っている間など食事をしない時間が続く時は肝臓で糖が作られ、血液によって常に体中に運ばれています。血液中の糖はすい臓で作られる「インスリン」の働きによって細胞へ取り込まれます。インスリンが十分に働くことによって血液中の糖の濃度は一定の範囲におさまっています。インスリンの分泌量が低下してしまう、もしくは量は十分にあるが効果が出ていないなどの理由で糖が細胞に吸収されず、血液中の血糖値が慢性的に高くなってしまうのです。
怖い糖尿病の合併症
血糖値を高いまま放置してしまうことで、血管や神経を傷つけてしまい様々な合併症を引き起こします。この合併症は大きく分けて細い血管の障害(細小血管合併症)によるものと、太い血管の障害(大血管合併症)に分けられます。細小血管合併症には神経障害・網膜症・腎症があり、大血管合併症は血管が固くなったり狭くなったり動脈硬化症を進める原因になります。これらの合併症は将来的に脳梗塞・心筋梗塞・失明・腎不全・足の切断などの大変重い症状となることがあります。ここでは合併症により網膜におこる障害について説明していきます。
網膜はどういう機能?
わたしたちの目はよくカメラの構造に例えられるのですが、網膜はフィルムの機能に該当します。角膜から入った光(映像的な光)を電気的情報に変換し、視神経を通して脳に情報を送るための重要器官であり、視力に直結し、病気が発生すると視力低下や視野欠損など重大な症状を引き起こすことがあるのです。厚さ0.1㎜から0.5㎜ほどの膜は多層構造をしていて、層ごとに重要な働きを持つ神経細胞が含まれており、毛細血管も多く張り巡らされています。
糖尿病網膜症の段階
血糖値を高いまま放置することで血管や神経が傷ついていくのですが、網膜中の毛細血管が傷つき血液がもれ出すことによって症状が進行してしまいます。そして、進行度合いによって大きく3つに分類されます。

ステージⅠ.単純糖尿病網膜症
毛細血管に毛細血管瘤と呼ばれる小さな赤い点が現れ始め、やがて小さな出血が始まります。タンパク質や脂肪などがもれ出て溜まる(白斑)も見られます。この時期は自覚症状がほぼありません。
ステージⅡ.前増殖糖尿病網膜症
症状が進行してくると、毛細血管がふさがってしまい血液が流れない部分が発生します。血液の流れない部分が増えてくると網膜に酸素が不足し、これを補うために新しい血管(新生血管)をつくる準備を始めます。この時期は視力低下、かすみ目、物がゆがんで見えるなどの症状が出ることがありますが、ここでも自覚症状がないことが多いです。
ステージⅢ.増殖糖尿病網膜症
さらに症状が進行すると、網膜から硝子体にかけて新生血管が伸び始めます。新生血管は弱く破れやすいので、硝子体に出血を繰り返したりします。こうなると新生血管が増殖してしまい、伸びては切れるという悪循環に陥り、飛蚊症や視力の低下、視野欠損などはっきりとした自覚症状が現れます。この段階になると、硝子体出血や網膜剥離の危険度が上昇してきます。
その他:糖尿病黄斑浮腫
網膜の中心にある黄斑に浮腫み(むくみ)が発生することがあります。原因は黄斑部の毛細血管にできる瘤や出血、毛細血管から血液の成分がもれ出ることで生じる浮腫みです。この症状は糖尿病網膜症の進行度合いとは関係なく発生する場合があり、目のかすみや視力低下を引き起こします。
治療法~症状の進行を止めるために~
➀:血糖値のコントロール。糖尿病の基本治療は、血糖値・血圧・脂質代謝を良好な状態に持っていくことです。食事療法、運動療法、薬物療法により適正な血液中の数値や体重を目指します。これらは、主に内科(糖尿病内科)の先生たちの指導を受けながら根気強く取り組んでください。糖尿病の診断が出てしまった後は、定期的に眼検診をしていただき、症状の進行がないかどうかをチェックする必要があります。
➁:網膜光凝固術(レーザー治療)。網膜にレーザーを照射して新生血管の発生を予防したり、すでに出現してしまった新生血管を減らす治療です。進行を食い止めることが主目的のため、症状の悪化による視力低下が戻ることはありません。
➂:硝子体手術。硝子体に出血が見られる場合や、新生血管を伴う増殖膜に網膜が引っ張られることによる牽引性の網膜剥離が起こった場合などは、手術による治療が必要になります。出血や濁ってしまった硝子体を切除して吸引したり、牽引している増殖膜を切り離して剥がれた網膜を元に戻す手術です。
➃:抗VEGF薬。新生血管の発生や成長を促す血管内皮増殖因子(VEGF)という物質の働きを抑える薬を目の中に注射します。新生血管の増殖抑制や糖尿病黄斑浮腫の治療に効果を発揮します。
糖尿病の診断を受けてしまったら
- 血糖・血圧・脂質の管理を徹底して健康的な生活習慣を身につけましょう。
治療の基本となる食事療法・運動療法・薬物療法を継続しておこない適正な数値を目指してください。糖尿病予備群の方もバランスの取れた食事や日々の運動を心掛けて、血液や体重の数値の上昇を防ぎましょう。目の健康だけでなく、体全体の健康につながります。タバコを喫われる方は禁煙してください。タバコに含まれる有害物質が血管に悪影響を与えます。
- 定期的に眼科を受診してください。
初めて糖尿病と診断された患者様は、すぐに眼科を受診してください。初期では自覚症状はほとんどありませんが、今現在の状態を確認して今後の検査計画を立てるために必要となります。検査の結果、病変が認められれば治療に入ります。数か月ごとに検査に来ていただきますが、患者様ご自身の“見える”のために根気強く受診してください。
おわりに
糖尿病網膜症は、糖尿病を起因とする病気のため多くの方が罹患する可能性がある病気です。放置すると悪化してしまうことがありますが、定期的に検査することで状況を判断しながら進行を遅らせることができるようになります。現在、厚生労働省では糖尿病を含む生活習慣病の治療について、内科だけではなく眼科や歯科など他科目との連携を強化するよう働きかけています。これは、お互いの専門知識を生かしながら連携することで、早期発見・早期治療ができるようにするためです。糖尿病と診断を受けないためにも、生活習慣に気を付けながら日々お過ごしください。
